さて、「6次産業化推進時のブランド戦略」というくくりで数回にわたってお伝えしてきましたが、このテーマについては今回で一段落です。
今日は、“共感プラットフォーム”という概念についてお伝えします。
1.「差別化」ではなく「共感」づくりを。
第3回のコラムで、「一般的なブランド戦略」と「6次産業化推進時のブランド戦略」との違いの一つとして、このようなことを書きました。
…6次産業化産品のブランド戦略を検討するにあたっての視点は、他者をベンチマークすることではありません。差別化は、ブランドではなく商品それ自体で行っているわけです。“他社製品よりも良い”ことをアピールするのではなく、“他ではできない経験”であることをアピールすべきです。そしてそのアピールに共感する需要者一人ひとりの顔を可能な限り具体化することにより注力すべきです。
もう少し掘り下げましょう。
どうして、往々にして“他社製品よりも良い”或いは“他社製品よりも安い”ということをアピールしがちなのでしょう?思うに、日常生活の中の消費者としての目線を意識してしまうのだと思います。私も、同じ値段ならより良いものを買いたいですし、同じ商品ならばより安く買いたいです。
でも、皆さんが市場に提供する商品は、「他社と同じもの」なのでしょうか??
「他社と同じもの」を出したいわけではない、ハズです。
そもそも、「6次産業化」の中で考案される商品は、一般消費財とは異なる特性を持っています。それは“その地域に根付いた風土・歴史・伝統”かもしれませんし、“名産品そのものの商材としての希少性(その土地の人には当たり前のものでも、それを「特別な体験」として受け止める人々はたくさんいます)”かもしれません。或いは、“名産品を加工する独特な技術”であったり、“伝統的食材から新たな商品を作ろうという情熱や努力”かもしれません。
であれば、そうした「異なる特性」こそ、まず初めに需要者に伝えることを考えるべきでしょう。
実際問題、地域産品の販促では、予算も限られ、大規模なマス広告を打つことには自ずと制約があります。ただ逆に言えば、その予算規模に見合った規模のマーケットを標的とすることで、活路を見出すことができます。同じ商材を扱っていても、ターゲットが違えば直接的な競争相手にはなりません。競争の為に限られたリソースを費やすことは極力回避すべきです。その意味で、“他社製品よりも良い”という相対論でのアピールではなく、“他ではできない経験”という絶対論でのアピールを志向すべきです。
「ターゲット」は、地域的な意味だけでなく、例えば年齢、所得水準、職業といった属性、更には「アウトドア好きな人」、「特定の芸能人のファンの人」といったコミュニティ的な要素でも括ることができます。こうした特定の層をターゲットにしたプロモーションを行うのに、Webを用いたブランド浸透というのは効果的に機能します(このあたりは、第5回のコラムで詳しく述べています)。
つまり、「差別化を生み出す」ための手段ではなく、「需要者との共感」を生み出すための手段として、ブランドを活用しましょう、ということです。そのためには、「ネーミング」も大事、「伝達手段の選択」も大事、「需要者層の特定」も大事です。そして、思考の順序としては、以下のようになるでしょう。
①「こういう需要者に売りたい」(需要者層の特定)
↑
②「じゃあ、こういう手段で伝えよう」(伝達手段の選択)
↑
③「そういうターゲットに響くネーミングは?」(上記に適したネーミング)
ここには、同業他社との競争の概念は出てきません。既に差別化されている品質を、需要者とのコミュニケーションの中で伝え、共感を得ることが目的となります。作り手と需要者、また需要者同士が共感を伝え合うための拠り所=プラットフォームとして、商標は機能していくことになります。そして、そうした商標の使用を法律上クリアにするために、商標権を取得することが強く推奨されるわけです。
「需要者の特定」を行うことにより、買ってくれる人が減るのでは?といったことを思うかもしれません。しかし大事なのは、万人に“いいかも”と思ってもらうことではなく、ごく一部の人でも良いから熱烈なファンになってもらうことです。ファンはファンを増やしたがります。商品の伝道者になってくれます。そうした“口コミ”においてブランドが口伝えで伝わっていくことをイメージしながら、作り手の思いを「一言」で表現したブランドづくりを、ぜひ目指していただきたいと思います。
さて次回からは、マーケティング・ブランディング論から離れ、商標法や不正競争防止法のプラクティスも踏まえた役に立つお話を順次お伝えしていきたいと思います。
【弁理士 中山 俊彦 (あさかぜ特許商標事務所 所長)】