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【1】地域団体商標のお話 ~「十勝若牛」の事例より~

農業分野ではこれまで特許や商標といった「知的財産権」について、あまり関心が高いとはいえませんでした。業界として競争や競合があまりなかったからかもしれません。しかし、良し悪しの話は別にしても、今後、6次化が推進されると農業現場には競争原理が入り込んでくると思われます。

当社でもお客様のビジネスモデルには積極的に「知的財産戦略」を取り込んでいます。十勝清水町農業協同組合が出願していた「十勝若牛」が先月、地域団体商標に登録されましたが、これもその一例です。

今日から数回にわたって農業における知的財産権の考え方について、あさかぜ特許商標事務所の中山俊彦弁理士にコラムを書いてもらうことになりました。2週間に1度程度の更新を予定しています。 ーー

先月初旬、十勝清水町農業協同組合が出願していた商標「十勝若牛」につき、「登録査定」を受領しました。同農協が中心となって仕掛けていった地域ブランド創生への取り組みが一つの形となったことは、なにより喜ばしく、また代理人としてはホッとしているというのが正直な気持ちです。

この「十勝若牛」の出願は、“地域団体商標登録出願”という制度に基づいて出願したものです。 この“地域団体商標登録出願”、普通の“商標登録出願”とは何が違うのでしょう? 通常の“商標登録出願”の登録要件にも触れつつ、ちょっと説明したいと思います。

図表を見てください。通常の商標登録出願の要件(=登録のためにクリアしなければならない条件)をざっくりまとめると4つです。

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1つ目は、そもそも権利を保有できる主体が出願人であること。ですので、例えば「○○マンション管理組合」のような“法人格のない組合”は出願人になることができません。

2つ目は、出願している商標が独占の対象となり得るものであること。 例を挙げましょう。例えば、指定商品「りんご」について商標「アップル」は、商品の普通名称そのものです。従って、誰かが独占できる性質のものではなく、こうした出願は拒絶されます。同じように、指定商品「調味料」について商標「辛口」は、商品の品質を普通に表すものなので、やはり独占できる性質のものではありません。 しかし、例えば指定商品「電子計算機(注:いわゆるパソコンです)」について商標「アップル」だと、これは“その”商品の普通名称ではありませんから、独占対象となり得ます。

3つ目は、他人の商標と抵触しないこと。 典型的には、類似する商標を他人が先に登録していたら登録を受けることはできません。しかしそれだけではなく、他人の有名な商標に似ていたり、取り違えてしまいかねないような場合、やはり登録を受けられない場合があります。

4つ目は、指定商品・指定役務が明確であること。 この「指定商品(指定役務)」というのは、「商標」とともに出願対象を特定する軸となるものです。よく、商標登録してしまえばあらゆる商品・役務(=“サービス”のことです)について独占権があると勘違いされることがありますが、そうではありません。実際、同一のマークについて、指定商品(役務)ごとに商標権者が異なる、といった状況も多々あります。 また「明確」というのは、権利範囲の外延を特定するにあたって求められるものです。

これに対して、地域団体商標は、1つ目と2つ目の要件が通常の商標出願とは異なります。

1つ目は、出願人になることができる主体が制限されている、ということです。具体的には、「(中小企業等協同組合法に規定する)事業協同組合」「農業協同組合」「漁業協同組合」などに限られます。これは、組合員に使用させるために組合が代表して権利を取得するという性質によるものです。

2つ目がポイントです。 地域団体商標として登録を受けられる商標の構成も法律上決まっていて、

① 「地域名称+普通名称」 ② 「地域名称+慣用名称」 ③ 上記に「元祖」「本家」「名物」等の言葉が付されたもの

のいずれかです。「十勝若牛」も、上記①のパターンです。

こうした構成の商標は、本来的には独占の対象とはならないものです。なぜなら「地名」部分は産地・販売地ないし提供地を表すものであり、これに普通名称を付加しても、通常はそれが誰の手によって生産されているかを特定する表現とはならないからです

従って、こうした表示の独占性を認めるための付加的な要件として、主体要件に制限を加えるとともに、その商標について一定程度の周知性が求められるわけです。

この「周知性」の立証、なかなか一筋縄ではいかないのです。 実際「十勝若牛」のケースでも、すんなりとクリアできたわけではありません。

「周知性」を立証するために、

商品の出荷伝票、小売店でのチラシ、商品に貼付する「十勝若牛」のシールとその製造枚数の記録、実際に店頭でPOP表示している写真とその店頭での売り上げ状況に関する記録、新聞・雑誌・テレビ等の各種メディアにおける露出とそれぞれの発行部数・GRP、各種イベント出展の記録とそのイベントの集客数、フィードバックに関する記録…等々、実に段ボール箱何箱分もの資料を精査の上、提出をしました。それでもなお一悶着二悶着あったわけですが…。

これから地域団体商標登録を受けようとお考えの協同組合さまには、出願に先だって次のような点をあらかじめ検討されておくのが良いと思います。

(1)証拠の整備はできているか?  上記のように、周知性を立証するための資料はかなりの分量に上ることを覚悟しておくべきです。周知性の立証にあたっては、“原因”と“結果”の両面について証拠を重ね、ストーリーを作っていくことが重要です。“原因”とは、「これだけイベントを行った」「これだけ広告を打った」「これだけ営業活動を行った」という、いわば自分が汗をかいた部分です。これに対して“結果”とは、「これだけの売上を計上した」「これだけ新聞記事に取り上げられた」「こんな賞を獲得するに至った」という、他人の評価の部分です。これを相互に関連付けつつ時系列にそってストーリーとして説明していくことにより、登録に至る可能性は高くなります。

(2)プロモーション活動を出願と同時並行で展開することはできるか?  おそらくこれから権利取得をする、という状況である場合、古くからのブランドというよりは、地域興しの起爆剤として展開していくことを考えているものと思われます。そうした場合、今現在行っているプロモーションの熱量を伝えていくことも、重要な要素の一つです。なんといっても、登録要件を満たすか否かの判断時点は「査定or審決時」です。結論が出るまでは周知性の証拠を積み重ねていく活動を行うことが大事です。

(3)ある程度の長期戦になることを了解できているか?  審査官も職権審査を行いはしますが、周知性の立証にあたっては、出願人の側における積極的なアクションが必要なケースが多いと思われます。そうとすると、本人出願の場合はもちろんのこと、代理人を立てて手続を行う場合でも、ある程度長きにわたって関与する必要が生じます。

そして、権利は取得がゴールなのではなく、そこからの運用、活用がその価値を左右します。 次回は「取得した商標の運用」について触れてみたいと思います。

【弁理士 中山 俊彦 (あさかぜ特許商標事務所 所長)】

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