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【8】権利取得により得られるメリット②

こんにちは!

 権利化(=商標登録)することで生じるさまざまな事象について種々の観点からお話しする本コラム。前回は権利取得により得られるメリットとして、“登録を受けていなかった場合に生じ得るさまざまなリスクを未然に回避可能”という『保険的側面』をお話ししました。

 今回は、その『保険的側面』が、どのような法規範により担保されているのか、をお話しします。多少カタい話になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。

1.商標登録による効果 登録を受けることにより生じる効果として、大きく分けると以下の2つが挙げられます。

  (1)他者の使用を排斥する、という効果(=他者排斥効)
  (2)他者による出願が登録されない、という効果(=後願排除効)

(1)の効果、つまり「他者の使用を排斥する効果」は、以下の規定により実現されます。

(A)「差止請求権」といわれるもので、商標法上に直接規定されています(商標法第36条第1項、第37条第1号)。ポイントとしては、登録商標それ自体(=同一)だけではなく、その『類似範囲』まで差止の効力が及ぶ、ということです。『類似』かどうかは、①商標(=マーク)が類似かどうか、②指定商品/役務が類似化どうか、で判断されます。

 問題は、『類似』というのがどこまでを指すのか、という点です。トートロジー的な説明になってしまいますが、“需要者が混同を生じるおそれがある”範囲が類似の範囲、というのが一応の理解としては正解です。個別具体的にどこまでが類似になるかについては、専門家に聞いていただく方が安全です。

(B)上記(A)に付帯して、在庫や製造設備等の除却を請求することができます。これも商標法上に直接規定されています(商標法第36条第2項)。

(C)さらに、一定の類型に属する予備的行為についても差止の対象となります。これも商標法上に直接規定されています(商標法第37条第2~8号)。「予備的行為」の具体例としては、侵害品を販売する目的で所持することなどが該当します。

(D)そして、他人の権利を侵害したことにより損害が生じている場合、これについての損害賠償請求を行うことができます。これは民法の不法行為に基づくものですが、損害額の推定について商標法上特則が設けられています(商標法第38条第1項~第3項)。

 要は、侵害に対しては、現在または将来に対しては差止請求が、 過去分については金銭的解決を求めることが可能となっています。

(2)の効果、つまり「他者が抵触部分につき登録できない効果」は、以下の規定により実現されます。

 商標の不登録事由として、他人の登録商標と同一又は類似の範囲については登録を受けることができない旨が明記されています(商標法第4条第1項第11号)。これは、混同を生じるおそれがある範囲に複数の登録商標が併存しないよう、行政による「交通整理」が行われている、と捉えることができます。

 この「交通整理」におけるルールは 早い者勝ち” です。

 つまり、先に出願したものが後の出願に対して優位な地位に立つことになります。これを「先願主義」といいます。従って、どれだけ先に使用をしていたとしても、出願が他人より遅ければ原則的には権利を取得することができない、ということになります。

2.さて、このような積極的な効果を俯瞰したうえで、もう一度前回の各ケースについて考えてみましょう。

<ケース1> 他社による“目印”の模倣

 品質の良さもあり売れ筋になっていた同社の商品。しかしある日小売店の店頭をたまたま通りがかると、どことなく似た、でも自社のとは違う商品が売られています!しかも同じような商品名、同じようなロゴマークをつけて。おまけに自社商品より少し安いです。

 ⇒もし商標登録をしていれば、直ちに模倣業者に対して警告状を打つことができます。更には使用の差止、侵害品の廃棄、過去の損害賠償の各請求を行うことができます。本訴の結論が出るには多少時間がかかるところ、仮処分申請も認められています。簡易・迅速な手続きで本訴とほぼ同じ内容の給付の実現が可能です。

<ケース2> 他社の権利侵害となるリスク

 A社の新商品Xの売り上げは好調、更に増産体制にはいるかな、と思っていた矢先、同業他社であるB社から警告状が届きました。 「弊社は商標『○○』の商標権者です。貴社は貴社商品に商標『○○』を権原なく使用しており、弊社商標権を侵害しています…」

 ⇒もしA社が自己の登録商標を使用していれば、そもそもこのような事態に陥ることがありません。また使用前に調査をしていればB社の商標権の存在を把握することができたでしょうし、仮に調査をしなくとも出願をしていれば審査の結果B社の登録商標の存在を知り得た可能性が大です。

<ケース3> 他社による権利取得の脅威

 売れ筋になっているA社の商品を目の当たりにしたC社。調べてみると、A社は商標登録をしていません。そこでC社は自ら出願してその商標を取得してしまいました。 C社はA社に対し、登録商標の買い取りを求めてきました。

 ⇒これも、そもそも登録を受けていないから生じる事態です。上述したように日本の商標法は「先願主義」を基調としていますから、単に“先に使用している”というだけでは他人の登録を排除してはくれません。

3.まとめ

 どうでしょう?日本の商標法は、 “商売をするんだったら、まずは使用するマークはちゃんと登録しておく” ということを当然のこととした規定ぶりになっています。
 登録により生じる種々の効力は、それが表だって活用される場面(つまり訴訟の場面)だけで意味を持つのではなく、日常の商行為におけるベースの規範となっているといえます。

 商売をつつがなく行うために、大事なマークには予め必要な手当てを。

さて、次回は「権利取得により生じる義務/負担」についてお話ししたいと思います。

長文にお付き合いいただきありがとうございました。

 

  【弁理士 中山 俊彦 (あさかぜ特許商標事務所 所長)】 

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