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【4】ネーミング 〜6次産業化(農商工連携)推進時のブランド戦略②〜

 前回から「6次産業化の場面における『ブランド戦略』」のお話をしています。今回はその第一歩である “ネーミング” についてお話ししたいと思います。

 

1.ネーミングの狙うもの

 さて、新たな農産加工品を市場に提供していくにあたって、どのような理想形を思い描くかは重要です。思い描く「理想」と、足元の「現状」とを正確に把握してこそ、そのギャップを埋めるためのアプローチの手順が浮かび上がってくるからです。

(1)あなたが手掛ける商品、どうなってほしいでしょう?

  • たくさん売れてほしいでしょうか?
  • 高く売れてほしいでしょうか?
  • 長い間売れてほしいでしょうか?
  • 多くの需要者に支持されたいでしょうか?
  • 熱心なファンがついてほしいでしょうか?
  • マスメディアで多数取り上げてほしいでしょうか?
  • 知る人ぞ知るという隠れた名品として位置づけられたいでしょうか?
  • 各種の賞を獲得し、名声を得たいでしょうか?
  • 同業者から一目置かれたいでしょうか?

 …上に挙げた「ねがい」は、互いに矛盾するものも含まれています。 商品の性質や生産規模、販売エリアの制約から、元から実現が難しい「ねがい」もあるでしょう。 それでも、まずは将来の商品の姿をイメージすることは大事です。

(2)次に、あなたが手掛ける商品は、どういう場面で用いられているでしょう?

  • 家庭のお茶の間で、一家団欒のお供としてでしょうか?
  • 受験生が、夜食としてでしょうか?
  • 若い女性が、ダイエットのために選んだのでしょうか?
  • 子供のおやつとしてお母さんが買ったのでしょうか?
  • 学校給食の一品としてでしょうか?
  • 外食産業の材料でしょうか?

 これらの場面設定は、販売先の特定(潜在顧客層の設定)につながってきます。

 …おそらくこうしたことは、商品企画の段階で行っていることかと思います。

 ネーミングにあたっても、同じように、「目標」、「ターゲット」を決めることが重要です。 ここで極力具体的な“掘り込み”をしておくことが、後々の発想に有益な材料となってきます。

 もう少し具体的にイメージしましょう。 例えば「一家団欒」。どういった家族構成でしょう? リビングの広さは?テーブル、それとも卓袱台? 商品はどんなお皿に乗って出てくる? 商品が食べ物である場合、お供の飲み物は?

 …細かい部分が想像できていればいるほど、そこでその商品がどのように呼ばれている(べき)かがイメージしやすくなります。

 

2.ネーミングの役割

 よく、「ネーミングは物言わぬ営業マン」といった表現をされることがあります。 確かに、比較的単価の安い商品であればネーミングの秀逸さによってトライアル購買(いわゆる“お試し買い”)を生じるケースがあることも事実です。また、その商品が他の商品と比較対象となっており商品品質に甲乙つけがたい場合、ネーミングが買い手の心に響くか否かで選ばれるかどうかが決まることもあります。

 しかし、商品の品質を度外視したネーミングをしたからといって、商品の品質がネーミングに追いつく、ということは当然ながらありません。備えていない品質を謳うことは、各種法律上の問題もあります。

 ここでネーミングの役割として、以下の3点が考えられます。

【ネーミングの役割】

(1)潜在顧客への“呼びかけ”

 新規の購買動機を作り出すための「きっかけ」としての機能です。 目に留まること、印象に残ることが重要ですが、単に派手にするのが得策とは言えません。

 「注意を惹く(Attention)」ことから需要の創出が始まる、という消費者の行動モデル(AIDMA、AISAS)ばかりではありません。 むしろ「共感を呼ぶ(Sympathy)」ことが購買へのきっかけとなるケースが増えています(SIPS)。このあたりは、次回のコラムでもう少し深く掘り下げます。

(2)リピーターへの“目印”

 一度購入体験をした人が、また同じ商品に辿り着くための「標識」としての機能です。

 商標法が特にケアをしている役割です。覚えてもらい易い、他人の商品等と紛らわしくない、購入することに心理的な抵抗がない、購入することにポジティブな動機を与える、といったことが重要です。

 一旦リピーターになってくれた顧客は、自分の親しい人にその商品を紹介したり、或いはブログなどで商品の感想を書くこともあります。つまり、お客様が自らセールスマン役を買って出てくれるということもしばしばあります。

 その際に、「そのマークがついている商品を勧めることを誇らしく思える」ような マークであると、口コミのスピードは加速していきます。

(3)対外的/対内的な“宣言”

 上記の2つは、需要創出、販売促進、といった側面でのネーミングの働きです。これとは別に、ネーミングには、その商品はどういう思いで作ったものか、どういう良いことを需要者に与えたいか、そうした思いについて、原料生産者、加工業者、流通業者といったかかわりのある主体同士でのコンセンサスを表すためのツールとしての役割があります。

 つまり、関係者は、その商品を通じてどういった思いでつながっているかを示す“旗印” としての役割です。そしてそうした思いに共感する人が、需要者として徐々に増えていくことになります。

 また、商品そのものをリニューアルすることも、長期的にはありえます。そうしたときに、何を需要者に利益として与えていくのか、ということを ネーミングで表していると、コンセプトがズレずにすみます。

 従って、“どういった奇抜な名前で需要者の目を引くか”といったアプローチではなく、“自分たちの思いをもっとも端的に表すには、どういった言葉が最適か”といった アプローチでネーミングに取り組むことが重要といえます。

 

3.ネーミングで気にすべきこと

 さて、いよいよ本題です。 このようにネーミングは、作り手の心意気や商品の品質、得られる利益を表現する手段として機能します。 そうした機能を満足に果たすためには、どのようなことに気を付けてネーミングを行うべきでしょうか?

(1)権利化可能性

<独占排他権の意味合い>

 弁理士という立場としては、この点をお話ししないわけにはいきません(笑)。

 商標権は、独占排他権です。つまり、名前を決め、これを登録することで、他人による同一 or 類似の商標を使用/登録を防止できます。これは、商売を続けていく上ではとても有利なことです。このことは、もし登録を行わず、他人が勝手に同じブランドで商売を始めた場合、更には他人がそのネーミングを権利化してしまった場合のことを思い浮かべていただければ判るかと思います。

 特に後者は、これまでの使用により築き上げてきた自分の商品に対する需要者の信頼や親近感といった“目に見えない財産”が合法的に奪われ、自分は改めて別の名前を検討しなければならない、既に作っている包材は廃棄、新たに包材を発注…、といったように、ダブル、トリプルのダメージを負うことになってしまいます。

<独占対象になるネーミング>

 またネーミングの巧拙、という点では、“独占対象になる名前を選択する” ということも大事です。

 つい最近の事例ですが、井村屋株式会社の「あずきバー」が1973年の発売開始から実に40年の歳月を経て、ようやく登録されるに至った、という事例があります(平成24年(行ケ)10285号)。

 2010年に井村屋株式会社が出願したのは、

  1. ロゴ態様(通常商品に付されているもの)の「あずきバー」
  2. 標準文字の「あずきバー」で、

 審査段階ではいずれも“独占適応性なし”の理由で拒絶されました。1.のロゴについてはその後不服審判において登録を認められたのですが、2.については審判段階でも認められず、知財高裁に持ち込まれ、最終的に特許庁における判断が覆ったわけです。

 特許庁の認定は、「あずきバー」は「単に商品の品質(原材料、形状)を普通に表したものであり、識別標識として機能しない」というものだったのですが、知財高裁はその特許庁の認定は認めつつ、「『あずきバー』はその販売実績、宣伝広告実績からして取引者・需要者の間に高い知名度を有しているから、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至っている」と判断し、周知性に基づき例外的に独占性を認めています(3条2項の適用)。

 もちろんこうした名称は、権利取得に至れば却って他社排斥のための強い権利となり得るのですが、ネーミングの段階では、できるならこうした苦労を経ないで独占性を確保できるものを選択すべきです。

<独占できないネーミングの例>

 原則「独占できないネーミング」の例としては、

  1. その商品/役務の普通名称 (例:「時計」について「時計」「ウォッチ」)
  2. その商品/役務の慣用商標 (例:「清酒」について「正宗」)
  3. その商品/役務の品質等を普通に表したもの(上記の「あずきバー」が該当します)
  4. ありふれた氏や名のみからなる商標 (例:「鈴木」「YAMADA」)
  5. 極めて簡単でありふれた標章(○、ハート、△など)のみからなる商標
  6. その他、出所表示として認識できない商標  (例:喫茶店の名称として「愛」、「純」など)

 が該当します。

 農産品、或いはその加工食品で典型的なのは、「産地+農産品(or原料)の普通名称」というものです。少なくとも、権利化可能性という観点からは、得策とは言えないネーミングです。

(2)浸透しやすさ

 次に、需要者の間に浸透しやすい言葉の選択、ということがポイントとなります。その意味では、新たに造語を作り出すよりは、既になじみのある、“その商品の普通名称や品質表示ではない”言葉をもってくる方が浸透はしやすいです。“その商品の普通名称や品質表示でない”とは、普通名称や品質表示だと登録可能性に難があるからです。

<“一つ半”ひねったボキャブラリーの選択を!>

 浸透しやすいネーミングは、極力普通名称に近い名前をつけることです。しかし、普通名称そのものや品質表示だと、独占対象にはできず、誰でも使えてしまうから  結局埋没してしまう。一方で、あまりに凝った名づけ方だと、名前と商品とが結びつかず、浸透しづらい。他人の商品と区別はつくけれども、何かの拍子に想起されづらい。

 独占対象となり、浸透もしやすい名前、ということになると、

 特に6次産業化関連の商品はストレートすぎる名前が多いことも踏まえれば、一ひねりでは不十分、二ひねりだと却って判りにくくネーミングの用をなさないケースが多いです。意識としては“一ひねり半”、ちょっと考えてその意味が分かる、といった距離感のものを狙うのがちょうど良いと思います。他社との差別化、という観点からも程よい距離といえます。

 一つのアプローチの仕方としては、

 “他の商品との関係だと普通名称/品質表示だけれど、該当商品との関係ではそうではない”  といった用語のネーミングへの転用です。
 具体的には、例えば「牛丼」について「特盛」というと、その品質ないし分量を表す記述的表示ですが、「パソコン」について「特盛」だと、品質を表す言葉として普通に用いられている事実はありません。それでいて、“あれこれ詰まったハイスペックな機械なのかな”という想像を需要者に起こさせます(ちなみに第5195105号として、パソコンを含む電子応用機械器具類他について「特盛」は登録されています)。

 また、「レモンを用いた菓子」のネーミングを例に、ネーミングの距離感を図表化しましたのでご覧ください。

 

コラム④添付図面

 ※なお、ネーミングのアプローチには、他にも種々あります。ご相談に応じますのでお気軽にご連絡ください。

(3)“長生き”する名前

 経年劣化しないネーミング、ということも重要です。

 ネーミングの一つの手法として、「流行り言葉を遣う」という方法があります。
 確かに、その言葉が人々の話題に上がることが多く、そこから連想して自己の商品に辿り着く(最近でいえば、ググったらヒットしてくる、というのもあるでしょう)という意味で利点はあります。
 しかし、流行り廃りは世の常。2,3年経ったらカビくさく感じてしまう名づけ方だと、せっかく商品が長期にわたって支持されるようなものであっても、却ってネーミングが足を引っ張ってしまいます。

<商標権は事実上「半永久権」>

 法律上、商標権の存続期間は10年ですが、更新登録料を支払うことにより10年毎に更新が可能です。

 権利者が保持し続ける意思と費用(といっても、1区分あたりの登録料は現状10年で48,500円です)さえあれば、半永久的に権利を持ち続けることができます。つまり法律上も、「商標は一度決めたら使い続ける」ように整備されているのです。

 以前述べたように、商標は信用を貯めるための器、財布なわけですから、コロコロと名前を変えてしまうとせっかく貯まっていた信用が新しいネーミングには引き継がれず、また一からの積み上げとなってしまいます。

 勿論、会社合併による社名変更、或いは商品イメージ一新を目的としたネーミング変更を行う場合もあります。しかし信用の蓄積の観点からは、同じ名前を使い続ける方が有利です。少なくとも、古臭くなったから名前を変える、といった運用をしなくて済むよう、地に足の着いたネーミングを心掛けたいものです。

 

4.まとめ

 ネーミングのテクニックに関する本は、書店にも複数あります。「言葉の加工」の仕方は、そうした本を1,2冊読めば十分身につけることができます。しかしそれよりも大事なことは、名づける商品/サービスが、どのように育ち、需要者に受け入れられてもらいたいかを可能な限り具体的にイメージすることです。
 そしてそのイメージを、手垢の付いたありがちな言葉ではなく、作り手の人生経験とボキャブラリーに基づいた言葉に表すことができれば、あなたにオリジナルで、なおかつ需要者との共感を作り出すことができる、素敵なネーミングになるでしょう。
売れることを狙ったネーミングではなく、商品に込めた魂を可視化する営みとしてのネーミングを、ぜひ行ってみてください。

 次回は「伝達ツール(メディア、と言い換えてもよいでしょう)」の選択について 述べたいと思います。今回長文になってしまいましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。

【弁理士 中山 俊彦 (あさかぜ特許商標事務所 所長)】

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