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【3】6次産業化(農商工連携)推進時のブランド戦略①

農業と知財の交差点からお届けするこのコラムも、第3回。

2013年は初めてとなります。

読者の皆様の視野が少しでも広がることを願って、今年も始めていきたいと思います。

何卒よろしくお願いします。

さて、今回から2~3回は、「6次産業化(農商工連携)推進時のブランド戦略」というテーマで述べていきたいと思います。今日は、「ブランド戦略」の考え方についての総論的なお話です。 

 

<「ブランド」について、ひとまず単純化>

「ブランド」という言葉を聞いたとき、“高級品”“ぜいたく品”を連想する方も多いかもしれません。或いは、服飾や時計、貴金属といったファッションに関するものがブランドものとして多くある、という意識も少なくないでしょう。確かに、ファッション小物関係では多くのブランド品があり、ブランド品であるがために市場では高い付加価値をもって取引されている事実があります。 

敢えて語弊を承知でシンプルに言えば、「ブランド」の本質は「検討コストの省略」と「失敗リスクの極小化」です。たまたま今日、私は財布を購入しようとネットショッピングをしていました。ここで、古くからある有名ブランドであれば、敢えてそれ以上詳細に調べる必要もなく、あとは単純に価格を検討すれば良いことになります。これに対し、初めて目にするブランド(商売柄それなりにブランドの知識はある方だと思っているのですが、それでもあまりにも数多くのブランドがあります)は、その会社のホームページやその会社の業況(アフターケアの可否検討のため)、口コミでの評判等を調べる必要があります。ましてノンブランド品の場合、材質や大きさ、色といった情報のみで良し悪しを検討していかなければならないことになります。どういう業者が作っているのか、原料や縫製へのこだわりはどうか、といった情報を得る手段そのものがないことも多々あります。検討不十分に購入すると、劣悪な商品をつかまされてしまうかもしれません。

信用が化体したブランドが商品に付されていることにより、一定の品質を備えていることを確信して購入することができる。需要者にとっては「検討コスト」や「失敗リスク」を回避することができる。だからその分の“安心料”が付加価値として乗っかっていても、取引として成立する、というわけです。

 

<一般的な「ブランド戦略」>

このテーマを述べるにあたって、「ブランド戦略」というものについての共通認識を確認しておく必要があります。

一般的には、「ブランド戦略」とは、

「ブランドすなわち商標を広告宣伝等によって売り込み、競争者の同一製品と自己の製品とを差別し、競争上有利な立場を築くことをねらったマーケティング戦略の一種」

のことをいうようです。

 

ただ、これはマーケティングの教科書的な定義でして、想定されている場面としては、市場の中の所定のプレーヤーの中で、他のプレーヤーとの差別化を図る、ということを目的としているものです。

しかし、6次産業化に直面した農業セクターとは前提条件が異なり、少々カスタマイズが必要そうです。異なると考えられる前提は、以下の通りです。 

(1)ブランドが既に存在することを前提としている。

一般的な「ブランド戦略」は、「ネーミング」そのものは別の話とされています。しかしこれから6次産業化産品を浸透流通させていく、という場面では、ブランド戦略を見据えたネーミングは欠かせません。また産品が一の原料作物の特性を活かすように企画されているという特徴を考えても、ネーミングとブランド戦略とは一体的に考えるべきケースが多いといえます。

(2)広告宣伝に投下する資本が潤沢にあることを前提としている。

当然、大資本のようなマス広告をバンバン打つことができるような予算はありません。むしろ草の根的な拡散の仕方を狙った戦略が必要となってきます。

(3)他者との競争を前提としている。

確かに市場で競合する商品がある中、自己の商品をいかにプロモーションしていくか、という意味で、他との競争が無い訳ではありません(むしろ売れるモノと売れないモノとの差は顕著にあらわれます)。しかし、6次産業化産品のブランド戦略を検討するにあたっての視点は、他者をベンチマークすることではありません。差別化は、ブランドではなく商品それ自体で行っているわけです。“他社製品よりも良い”ことをアピールするのではなく、“他ではできない経験”であることをアピールすべきです。そしてそのアピールに共感する需要者一人ひとりの顔を可能な限り具体化することにより注力すべきです。

 

<6次産業化場面における「ブランド戦略」の再定義>

上記の各視点を踏まえて、6次産業化の場面における「ブランド戦略」を再定義すると、例えば以下のようになるかと思います。

「6次産業化製品の販売促進のためにブランドを活用するための戦略であって、

① 適切なネーミングを行い、
② これを適切な伝達ツールを用いて想定需要者に伝達することで、
『共感プラットフォーム』を構築することにより、

 結果として他の同種製品との差別化を図る戦略」

 

もう少し簡単に言えば

「製品にまつわるストーリーの“語り部”としてのブランドを産み、育て、活用する販売戦略」

ということになるでしょう。

具体的な競争相手との差別化、というよりは、需要者の意識の中での存在感を高める、ということにより注力されるべき。意識するのは競合相手ではなく需要者、ということです。

こうした観点から、次回以降、「ネーミング」「伝達ツール」「共感プラットフォーム」について順次お話していきたいと思います。

【弁理士 中山 俊彦 (あさかぜ特許商標事務所 所長)】

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