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【再録】デンマークの農業システムについて

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ナレッジセンターの正面に設置されている親子の豚の像。養豚王国デンマークを象徴している

昨年冬のドイツ・デンマーク農業コンサルティング研修についてはニューカントリーの「海外事情」の6月号と7月号の2回に分けて「環境と調和し産業として自立、ドイツ、デンマークの農業」として書かせていただきました。1回目のバイオガスプラントの関係については、このブログでの数回にわけて詳しく書いたのですが、2回目に掲載された「デンマークの農業システム」については、こちらのブログに書いてませんので、ここでは内容を一部改変して再録することにします。

なお、第1回、第2回とも内容は以下にPDFで配信しています。

ニューカントリー 2012年6月号 (バイオガス編)
ニューカントリー 2012年7月号 (デンマークの農業システム編)

ずいぶん時間が経ってしまいましたが、ずっと書きたいと思っていたテーマです。デンマークは今では欧州でも有数の農業国ですが、なぜ、それほど農業が産業として強くなったのか、それは農業経営者の意識にあるのではないかと思います。自己責任で決断できる経営者が相互に情報交換し、産業としての農業はどうあるべきか業界として考えているような雰囲気を感じました。

以下、一部、加筆していますが、転載します。

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コペンハーゲンを象徴する「人魚姫」の像

 

前号では農業コンサルティング研修で見たドイツとデンマークのバイオガス・プラントについてリポートした。農家が個別に設置する比較的小規模なものから地域のさまざまな関係者が関与して建設している集中型の大規模なものまで、プラント建設の動機や目的は異なるものの農村地域に豊富に賦存しているバイオマス資源の積極的な利活用としては非常に学ぶべきものが多かった。

関係者への取材で感じたのは、産業としての農業の将来ビジョンが明確であるということである。両国の農業が国の経済を支える重要な産業として位置づけられているのは、将来に向けた戦略的なシステムがあるからであり、農業経営者ひとりひとりがプレイヤーとしての責任を担っているからであると気付いた。

今回の研修旅行では酪農学園大学の中原准一教授にデンマークでの旅程をコーディネートしていただいた。中原先生からは今回の旅行に行く前に、酪農学園大学が発行している「酪農ジャーナル」に昨年の11月号から中原先生が執筆されている連載「デンマーク酪農に学ぶ」をお送りいただき、デンマークの農業について予習をしていた。デンマークに入国後はデンマーク在住のオーフス大学工学研究所の高井久光先生に現地を案内いただくだけでなく、デンマークについて詳しくお話を伺う機会にも恵まれた。

私たちはドイツのフランクフルトからコペンハーゲンに移動し、日本からやってくる中原先生と国際空港で落ち合い、特急列車に乗ってデンマーク第二の都市オーフスに向かった。

System

→ 上の図は、高井さんにいただいた図表を改変したものですが、日本流で考えれば上に書かれるべき組織が下に書かれています。そもそも産業の主体に関する概念が違うようです。

オーフスで最初に訪問したのは、農業ナレッジセンターである。ここはいわゆる普及事業の全国本部であり、この組織下に全国34カ所の地区農業普及センターが設置されている。全国本部である農業ナレッジセンターでは地区農業普及センターに対して試験研究機関や海外で開発された最新ノウハウを提供するほか、独自の計画に基づいて実用的な研究開発に従事している。

地区農業普及センターには畑作、酪農、養豚、農場会計、経営管理などのセクションがあり、普及員は個々の農業者や農業者グループの経営目標に対してそれぞれの条件に応じた個別のアドバイスを行なっている。

デンマークの普及事業の特徴は農業者組合の組合員のために個々の農場経営を重視していることである。普及員は農業者の自主的努力を補うが、意思決定は農業者が行い、その結果に対して責任を負うのも農業者であるという姿勢を堅持している。そして、政府の代弁者であってはならないとしている。(中原准一 酪農ジャーナル 2011.09)

デンマークの普及事業の運営は政府や地方自治体による”官製”ではなく、農業者組合(アンデルス企業)によって運営されている民営組織であることに私は驚いた。普及センターも試験研究機関も、そこで働く普及員、研究員もすべて組合に所属しているのである。現在は政府からの補助金もなく組織の経済基盤の6割は農業者の利用料金で賄われている。この利用料金は1時間あたり9,000~15,000円である。

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ナレッジセンターで養豚の専門家の話を聞く。高井先生には通訳をしていただいた。約2時間のレクチャーでおよそ3,000クローネの請求(50,000円)があった

私は専門家に報酬として支払う金額としては適当であると思われるが、日本の農業者はこの金額を高いと考えるだろうか、それとも適当、あるいは安いと考えるだろうか。

デンマークの普及システムは個々の農業者の経営の質を高めるためにのみ存在し、個々の農業者の経営が良くなることによって産業としての農業の存在感を高めている。さらに民間の農業コンサルタントも多く存在し、より良い農場経営を実現するために農業者、普及員、コンサルタントがお互いに切磋琢磨する厳しい環境があった。

今回の旅行でバイオガスプラントをはじめ多くの農場へ案内してくれたヘアニング市を拠点するとする地区農業普及センターの会計部長であるパレ・ホイ氏が言った「われわれは農業者のスパーリング・パートナーである。」という言葉が私は忘れられず、帰国してから私のコンサルティングの方針とすることにした。

Cornerstone

高井先生からのデンマーク農業に関するレクチャーでもうひとつ驚いたことがある。それは充実した農業経営者の育成プログラムである。

この教育プログラムによって高い経営能力をもった農業経営者を輩出しているのである。デンマークの国内にはおよそ20の私立農業学校があり、それぞれに座学と農場実習を組み合わせたカリキュラムが組まれている。農業学校には基礎教育、職業・技術教育、農場管理者育成教育の3つのモジュールがあり、それぞれのモジュールを修了した際には農場労働者、熟練農業者、そして最終モジュールではグリーン証(緑の認定証)を取得する資格を得ることができる。

グリーン証の取得者でないと30ha以上の農場を買収することができない。デンマークでは農場の継承は有償を原則としており、親子間での無償譲渡した場合には高額の相続税が課税されている。このため、グリーン証を保有している農業経営者による農場の買収が積極的に行われており、高い経営能力を有する者に農場経営が委ねられるシステムが構築されている。

→ どうやら最近、このグリーン証は廃止されたようです。グローバリデーションに対応するために農業にアクセスする人の間口を広くするためだそうです。しかしながら一定規模以上の農場経営には専門の教育を受ける必要があるとのことです。

デンマークの農業学校では寄宿舎での共同生活が行われていることから、修了した農業経営者同士の横の人的ネットワークも広がっている。また入学者も非農業出身者や女子の比率も高まっているという。

デンマーク農業のプレイヤーの層の厚さを感じざるを得ない。 今回のドイツとデンマークをめぐる農業コンサルティング研修旅行は短期間であったが、現地の事情を熟知するコーディネーターのおかげで非常に勉強になった。私は日本では数少ない民間の農業コンサルタントとして活動しているが、農業が産業としての強さをつけるためには、農業経営者自身による自己責任の経営と、農業経営を担う良質なプレイヤーが必要であると強く思わされた研修であった。

今後も年に1度程度の研修旅行は企画したいと考えている。本稿を読まれた方のご参加も歓迎したい。

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